アスリートを支える、 デジタル時代の自己調整法
徳島大学総合科学部は、文系・理系の垣根を越え、多様な視点から現代 社会の課題に挑む研究が進められています。 今回はその一例として、 多 くの人にとって身近な「スポーツ」や「健康」をテーマに、科学的なア プローチで心と身体の可能性を追求するお二人にお話を伺いました。 ア スリートのパフォーマンス向上から日々の生活まで応用可能な「身心の 自己調整法」 を研究する中塚先生と、 その理論を基に、 練習記録をデジ タル化する独自のツール 「Digital Life Log(以下、DLL)」を開発し、自 らの競技力向上にも繋げている大学院生の藤田さんです。 心と身体を 「見える化」する、 デジタル時代の新しい自己調整法と、 その探求を支 える総合科学部の魅力に迫ります。

心身健康コース
中塚 健太郎 准教授

心身健康コース4年
藤田 はづき さん
「自分らしさ」と向き合うことから始まった探求
– まず、お二人が現在の研究テーマに関心を持たれた、それぞれのきっかけについて教えてください。
中塚先生 「どうすれば、自分らしく生きられるのか」 「緊張や不安とうま く付き合いながら、 自分の力を最大限に発揮するにはどうすればいいの 「か」。私の研究室では、そんな誰もが一度は考える問いに、 スポーツ心理学 や健康科学の視点からアプローチしています。 そのキーワードが 「身心の自 己調整法」。これは、自分の心や体の状態に気づき、 その状態に合わせて自 分自身を整える実践的な方法です。 この考え方は、アスリートだけでなく、 誰もが「自分らしさ」を発揮して生きていく上で、 非常に重要だと考え、研 究の道に進みました。
– 自分らしく、という普遍的な問いが原点なのですね。 藤田さんは、ご自身の経験がきっかけになったと伺いました。
藤田さん はい。 私は高校時代から毎日練習記録をつけていたのですが、内容は練習メニューが中心でした。 でも、 パフォーマンスが良かった時、自分 はどんな生活を送り、 どんな心理状態だったのか、練習以外のことも含めて 記録し、関係性を知りたいとずっと思っていたんです。 その後、総合科学部 に入学して中塚先生と出会い、 自分の心身の状態を客観的に見つめることの 重要性や、 デジタル記録が持つ可能性について学び、 この研究を具体的に進 めたいと強く思うようになりました。

データで心と身体を 「見える化」 する面白さ
– 今回のテーマである 「見える化」 ですが、 お二人の研究 では、具体的に何をどのように 「見える化」 するのでしょう か?
中塚先生 私の研究の核である 「身心の自己調整法」 は、 まず自分の心や体 の状態に「気づくこと (セルフ・モニタリング)」から始まります。この 「気づき」こそが、 いわば 「見える化」 の第一歩です。 そして、 その状態に 合わせてリラクセーションやアクティベーション (気分を高める方法)など を使い分け、自分自身を最適な状態に 「整える (セルフ・コントロール)」 へと繋げます。この研究の面白さは、人の心も体も一人ひとり違うので、 「正解が一つじゃない」ところ。自分に合った調整スタイルを見つけていく プロセスそのものが、ユニークでワクワクする学びに繋がります。
– 自分だけの調整法を見つけるための 「見える化」なので すね。 藤田さんが開発されたDLLは、何を「見える化」するツー ルですか?
藤田さん DLLは、従来の練習記録をスマホやタブレットでデジタル化した ものです。 練習内容だけでなく、心理状態や生活習慣といった項目も加える ことで、心身の状態とパフォーマンスの関係を 「見える化」 し、 自己理解を 深めることを目指しています。 実際に私自身が活用したところ、自己ベスト を更新し続けることができました。 さらにDLLは、データを指導者やトレー ナーといった、 競技者を支えるチーム (アントラージュ)とリアルタイムで 共有できるのが大きな特長です。 これにより、選手の状態をチーム全体で可 視化でき、従来の記録以上に心身への理解が深まり、 より的確なサポートが 可能になることが分かってきました。
科学的サポートが、 試行錯誤を成長に変える
– 中塚先生は、学生が研究を進める上で、どのようなサポートを心がけていますか?
中塚先生 大学での学びは、ただ知識を覚えるだけではありません。総合科 学部には様々な専門領域があるので、それらを活用しながら「自分で考え、 選び、行動できる」人材を目指してほしい。 ですから、 教員から答えをもら うのではなく、教員をパートナーとして、共に解決策を探る 『学び合い』を 経験してほしいと思っています。
– 教員は答えをくれる人ではなく、共に探すパートナーな のですね。藤田さんは、DLLの開発や研究を通して、 どのように 成長できましたか?
藤田さん DLLを自分で活用することで、心身の状態とパフォーマンスの関 係が客観的に見え、自己理解が格段に深まりました。 さらに、先生から フィードバックをいただく中で、体重や疲労、 心理状態といった多様な情報 が、自分のパフォーマンスにどう結びついているのかを客観的に分析できる ようになり、視野が大きく広がりましたね。 この研究を通して、科学的な データに基づいて自分を分析し、改善していくというプロセスを実践できた ことは、競技者としても研究者としても、大きな成長に繋がったと感じています。

「自律」 と 「持続可能性」 が拓くアスリート支援の未来
– お二人の研究は、これからのアスリート支援をどう変えていく可能性があるのでしょうか?
中塚先生 自分で心身の状態を整える 「自己調整」の力を育てることは、こ れからの多様な社会や、専門家が不足しがちな地域社会でのWell-being(心と体の健康)を支えるカギになります。 この考え方は、スポーツだけでな く、教育や福祉、ビジネスなど、あらゆる分野で「自分らしく、力を発揮する」ための基盤として活用が期待されています。
– アスリート支援に留まらない、 社会的な意義があるので すね。 藤田さんのDLLは、 どのような未来に繋がりますか?
藤田さん DLLの活用が進むことで、選手自身が自分のことを考え、行動で きる「自律型アスリート」の育成が期待できます。さらに、指導者不足や、 指導者が遠隔地にいる場合でも、DLLを通して選手のことを効率的かつ的確 に把握できるようになります。 これによって、より柔軟で持続可能な競技者 支援体制を構築できると考えています。 将来的には、この研究で得た経験を 活かし、地方におけるアスリート支援の新しい方法や、 指導体制の整備にも 貢献していきたいです。
挑戦を歓迎する、 総合科学部という学びの場
– 最後に、総合科学部が持つ魅力について教えてください。
中塚先生 ここは、ただ知識を覚えるだけの場所ではありません。「なぜで 「きないか」を問うのではなく、 「どうすればできるか」を仲間と共に探求す る。そんなワクワクする学びが 「楽しい」 と感じられる時間と空間が、 総合 科学部にはあります。
– 藤田さんにとって、 総合科学部はどのような場所でしたか?
藤田さん 総合科学部は、私の「やってみたい」という想いを、挑戦、そし て結果へと導いてくれる場所でした。 そのための科学的なサポート体制が、 ここには整っています。 そのおかげで、 多様な学問分野に触れて物事を多角 的に捉え、 自分のパフォーマンス向上という視点だけでなく、 「地域」 や 「社会」へと視野を広げることができました。 素晴らしい出会いにも恵ま れ、日々成長を実感できたこの環境が、 私は本当に大好きです。
– 中塚先生、藤田さん、 本日はありがとうございました。 スポーツ心理学に基づく 「自己調整」 という考え方と、それを 実践・共有するためのデジタルツール「DLL」 科学的な理論と 具体的なテクノロジーが結びつくことで、アスリート一人ひと りの可能性を最大限に引き出し、 持続可能な支援の未来を創り 出そうとしている様子が伝わってきました。 そして、その挑戦 が、学生の 「やってみたい」という想いを尊重し、 多角的にサ ポートする総合科学部の環境で花開いていることも印象的でし た。 最後に、お二人から高校生へのメッセージです。
中塚先生 「できる理由」 を一緒に見つけよう! そんな大学生活を、徳島大学総合科学部で一緒に始めてみませんか?
藤田さん これから未来を切り開いていく皆さん、 勇気をもって一歩踏み出し、総合科学部での新たな発見や課題への挑戦を楽しんでください!

